理究の哲学(エンジン)

第一章 幸福ノ学

第二項 「幸福論」のスピード概論

人間にとって「幸福」ということは大切なことである
自分に対しても他人に対しても「幸福」を願ったり、祈ったりする場合が多い。
しかし、幸福とはどんなことなのか、どうすれば得られるかについて、つっこんで考え始めるとわからなくなる。
幸福は「心の持ちよう」と言われたりする。
確かに金さえあれば幸福になると思っている人もあるし、多くの金を持っているために不幸になる人もある。
「自分さえ幸福だったらよい」と考える人があるかと思うと、誰か「他人の幸福のためなら」自分はどうなってもいいと思う人もある。

―『「人生学」ことはじめ』河合隼雄―


「幸福」という言葉や概念が、最近、学術研究者の中でも注目されています。
書店を覗くと「幸福」に関する書籍が専門書も含めると、かるく20~30冊は見つかるでしょう。

ネットで検索すると様々な「幸福論」が出ています。
ウィキペディアには、今日の「三大幸福論」としてアラン、ラッセル、ヒルティを挙げているので、先ずはこれらを簡潔に紹介します。

先頭は、フランス人のアラン『幸福論』。
この本は、自分の考え方を少し変えるだけで、自分を幸せに変えてくれる方法があることを教えてくれます。93編の短いコラム集なので、どの編から入っても、飛ばし読みしても問題なく読めます。しかも「徹底したゆるぎない楽観主義者」という感じなので、肩に力が入らず気楽に読めます。平易な新訳も出ています。

イギリス人のバートランド・ラッセル『幸福論』は、自分の関心を内へ向けるのではなく外に向け、あらゆることに好奇心を持つこと、活動的に生きることを推奨しています。原題は”The Conquest Of Happuness”(直訳すれば”幸福の獲得”)です。
つまりコンセプトは、幸福は他力ではなく自力で獲得するもの、という万人に受け入れやすい前向きな主張です。

スイスのカール・ヒルティは、神による救いを説き、神のそば近くあることが永続的な幸福を約束するとした宗教的な『幸福論』です。
私は、たまたま高校時代にヒルティの『幸福論』を手にしましたが、訳本が難解で途中で投げ出したことを覚えています。
欧米の「幸福論」は、背景としてキリスト教的信仰に立脚しています。
しかし、宗教性や時代性を間引いても、実際的な生活の指針に満ちています。まさに”人生論”としての骨太の作品です。

何をもって「三大幸福論」というのかは私には定かではありません。
確かなデータはありませんが、日本でも多くの訳者によって出版されているので人気があるのでしょう。
「幸福論」に関心がある人は、図書館や書店で手にして(さらさらっと)ページをめくるところからがスタート。
この手の啓蒙書本は無理して購入することはすすめません。手当たり次第の乱読をすすめます。
自分の琴線に触れるようなキーワードやフレーズに興味を持ったら継続し、面白くなければ中断すればいいのです。読みやすいものを選択すると続きます。

古代ギリシャ哲学者アリストテレスは、「真の幸福とは、徳のある人生を生き、価値ある行為をすることによって得られる」と、人間の潜在性可能性を実現することこそ究極のゴールと論じました。平たく言えば、人間のやることはすべて、自分が幸せになるためにやることだ。という考え方です。
アリストテレスは、ソクラテス、プラトンと続く「西洋最大の哲学者」と称されています。
凄いですよ、今から2400年も昔の偉人です。日本にはまだ国家がない時代です。
人間という生き物は、半永久的に「幸福論」について関心を持ち続けていることがわかります。

さてさて、最近では『持たない幸福論』(作者:PHA幻冬舎)のようなユニークな本も出ています。
当社顧問の高島康司先生の著作(『望みなき時代の幸福論』)の中で、「今やマイホームなどモノを所有することから得られる幸せの価値観が薄れ、一個人として趣味の世界に籠もることでえられる”オタク”的幸福観が定着するなど、これまで共有されていた幸福のイメージが大きく変わりつつあるのです」と、時代の変化を指摘しています。

啓蒙者の多くが”正論”なので、納得すること、指針になること、喚起されることも多いでしょう。
心乱れたときに、たったの一文だけで落ち着くことができる、そんな本は宝物。最終的にお気に入りの一冊に出会えたならば、購入して手元に置くのも良いでしょう。

ただし、すべての「幸福論」に共通すること―それは、「幸福論」は多くのダイエット本やスポーツ解説本と同じで、本を読むだけで効果が表れるものではないということです。
え?え!え?と感じ始めたあなたは、次の問いに答えてください。

・資格を取ろうと、夢中でネットを検索したり、パンフレット取り寄せたりしたけどそのままだったりしませんか?
・最近話題の”RIZAP”(ライザップ)に心を動かされ、筋トレをやり始めたが、2週間で終わった、に似た経験ありませんか?
・「今年こそダイエット」と、毎年決意しているのに、失敗し続けているなんてことありませんか?

ところで、「幸福」を表現するものは、書籍だけではありません。
邦画ならば、山田洋二監督『幸福の黄色いハンカチ』(1977年)は、とても日本的な”線香花火的な感覚”を醸し出す幸福感を描いています。日本アカデミー賞も受賞している名作です。が、現代人が理解できるかどうかはわかりません。

是枝裕和監督、福山雅治主演の『そして父になる』(2013年)は、赤ちゃんの取り違い事件が発覚したあと、”血のつながり”という家族にとって重大な問題に直面した夫婦、父と子の姿を通し「家族の幸福とは何か」を考えさせられる話題作です。

洋画では、ウィル・スミスの『幸せのちから』(2006年)(原題はThe pursuit of happyness)がおすすめ。
ちなみに、この原題はアメリカ独立宣言における「幸福の追求(The pursuit of happiness)」に由来しているそうです。ハピネスを”happiness”ではなく”happyness”とするところが洒落ています。
何をいってもウィル・スミスが実の息子(ジェイデン・スミス)と共演しているのが肝。父子でのやり取り場面は、観客の感情移入ボルテージをあげました。アメリカ映画特有の前向きなアメリカンドリームをそのまま映像にした感じがします。

トム・ハンクスとジュリア・ロバーツのビッグネームが共演するコメディっぽい映画『幸せの教室』(2011年)。不景気により、解雇された中年が前向きに挑戦を続け、新たな経験をして人生を切り拓くポジティブ映画です。
タイトルは『幸せの教室』ですが、原題は『Larry Crowne』(主人公の名前)です。映画関係者も「幸せ」という言葉を使えば、ヒット間違いなしの”テッパン言葉”なのを認識しているようです。

本は、ひとりでじっくりマイペースに読むものですが、映画は二人で観る方が効果的。二人並んで作品に向かい合う”共有時間”、そしてそのあとの”共有感覚”が、ほんのちょっぴりですが、何にも変えがたい”幸せ感”を与えてくれます。さぁ、誰かを誘って映画館に行きましょう。

この章の冒頭で紹介したように、全世界で「幸福・幸せ」を題材・テーマにした歌は、数え切れないほどあります。
その中で是非紹介したい歌は、1968年(昭和43年)、大ヒットした『三百六十五歩のマーチ』です。
若い世代は知らない人が多いでしょうね。YouTubeで確認できます。
あなたの周りに40歳以上の先輩がいたら聞いてみてください。

♪しあわせは、歩いてこない、だから歩いていくんだね
♪一日一歩、三日で三歩、三歩 進んで 二歩さがる
♪人生はワン・ツー・パンチ 汗かき べそかき 歩こうよ

昭和の臭い(匂い)がぷ~ん、とします。
「幸福論」はこの歌に凝縮されています。

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