理究の哲学(エンジン)

第一章 幸福ノ学

第五項 ポジ感情に”プラス賢”は不可欠

― Is Glass Half Empty or Half Full? ―

”楽観主義”対”悲観主義”を論じるときに、よく例えとして出されるものとして、ノーベル文学賞を受賞したバーナード・ショウの格言である「Is Glass Half Empty or Half Full?」という有名なフレーズがあります。
日本語では、こうです。
グラスの中にワインが半分入っている状態を見させて、あなたはどう思いますか?
「まだ半分」と思うか、
「もう半分」と思うか。
あなたならどちらですか?

どこかで耳にしたことがありませんか?研修などで頻繁に利用される例です。
グラスの中のワインを見て、「まだ半分もある」と思うのは楽観主義者で「もうグラスには半分しかない」と思うのは悲観主義者というわけです。
どちらを選択するかで、楽観主義者か悲観主義者かを判断し、中にはレッテルを貼るいかがわしい輩もいます。
「まだ半分ある」は、前向きな表現だからと、そのような思考にしなさい!と楽観主義に誘導させたりします。
ここで、少し考えてみましょう。
この例は、たまたまグラスの中がワインでした。ワイン好きかどうかで、発想は変わります。また、グラスの中がジュースなのか、水なのか。
加えて、今喉がカラカラなのか、酔っ払っているのか、彼女とこれから仲良しタイムなのか、”条件によって違うよな”といったツッコミをまたまた入れたくなります。
「Is Glass Half Empty or Half Full?」は、バーナードショウという、言葉の魔術師が使い、今や世界中で引用される名言です。この言葉に文句があろう筈はありません。私がツッコミたくなるのは、それを表面的にだけ利用し、悲観主義を必要以上に否定する風潮です。

自己啓発本によくある表層的な、「ポジティブ思考のすすめ」「悲観主義を捨てろ!」「楽観主義こそ、すべてを救う」「笑顔で耐えよう」「心配するのは止めよう」「いつも機嫌よくいよう」などのモットーのような類は世に溢れています。
それらに縛られたり、惑わされることなく、自分自身の感情の動きに目を配る、”ネガ感情を持つことも自然だよ”と受け入れる。そのような時間を持つことで、自分自身を変えることができる、とポジティブ心理学者は提唱しています。

私は、「明・楽・元・素 プラス賢」(『理究の精神』参照)という表現で、会社風土を作り上げていこう、と考えました。楽観主義は、多くの人に支持されます。俗にいう「根クラ」タイプよりも好まれるのが、「根アカ」タイプです。何度も言いますが、人間の脳は楽観的に考えるようにできていると脳科学者は分析しています。
「プラス賢」がなければ、”ただの楽観主義”=”能天気状態”と同じです。
自分の頭で考えない、現状把握が弱い、状況を分析しない、イケイケゴーだけの、情緒的のみ、気分次第の楽観主義は、軽薄で向こう見ずな行動のみしか生まないでしょう。

戦前の軍国主義は、”精神主義的な楽観主義”が横行していたのだなぁ、と歴史を紐解くと感じるときがあります。太平洋戦争終戦の2年前に「知られざる陸軍終戦工作」がありました。日本中が根拠のない強気、強気、の時勢です。
「神の国、日本が負けるはずがない」と、国民の多くがマインドコントロールされていた時代です。天皇が”神”だった時代です。しかし、この平成時代になっても、政治家の中に未だに「日本は神の国」と放言し、のさばっている時代音痴な人もいます。困ったものです。
さて、当時の軍国主義一辺倒の中にも、”弱気を吐く勇気”を持った冷静な判断力、立派な見識を持った知識人、文化人、軍人が、日本には少なからずいたことが知られてます。陸軍大佐 松谷誠もその中のひとりです。彼らは、「この戦争を早く中断し、和平交渉を開始しなければ日本が滅びる」という悲観論でした。冷静な分析を基にした国内工作を精力的に行いました。残念ながら、その知恵や情報は、時の”楽観主義者”たちに、握りつぶされました。
1945年の2年前、いや1年前に終戦していれば、東京大空襲はなく、広島・長崎の原爆もありません。若き特攻隊の命も大勢救われたでしょう。今日、日本が抱える大問題、出口の見えない沖縄基地問題はなかったかもしれません。 一方、日本が完膚なきまでに敗戦し、主要都市が焦土化したからこそ、無条件降伏を受け入れたとも考えられます。その結果、”民主的国家”アメリカが乗り込み、GHQの支配下で、日本の奇跡的な復興を可能にさせた、という絵柄にもなるのです。
これこそまさに”人間万事塞翁が馬”という中国の故事成語そのものです。
凶が吉になり、吉が凶になる。「吉凶は糾える縄の如し」です。
歴史に「たら、れば」がありませんが、「たら、れば」を考えるとこれまた、面白いのです。
「プラス賢」とは、本著のテーマである「考える習慣をつける」「考える方法という武器を持つ」に直結します。

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