理究の哲学(エンジン)

第六章 保育・幼児教育の考察②③

第一項 幼児の能力分析 編

3【精神力の発達】(2012.06.18 掲載)

幼少期の「脳の急激な発達」の科学的根拠を前回までに触れた。
幼児期の能力を便宜的に①言語能力②身体能力③社会性(対人関係)④問題解決能力⑤精神力⑥知的好奇心、の6つに分類して考えてみたい。幼児の能力は未分化しており、この6つは完全に独立したものではない。また、相互に関係し合い、また重なり合ってもいる。発達の速度も個人差がある。
今回は、「精神力の発達」について触れよう。
幼児期に精神力?と、違和感を持つ人もいるかもしれない。集中力、気力、粘り、自制心、我慢力、欲求不満耐性などの総体としての「精神力」だ。幼児の段階から育みたい能力の1つだ。それに関係した興味深い実験「マシュマロテスト」を紹介しよう。
対象者(被験者)は、幼稚園の4歳児。子どもは、机と椅子だけの部屋に通される。机の上には皿がありマシュマロが一個載っている。実験者は『私はちょっと用事で出かける。それはキミにあげるけど、私が戻ってくるまで食べるのを我慢したなら、マシュマロをもう1つあげる。でも帰ってくるまで待てなかったら、ここにあるマシュマロを1つだけ食べていいよ』と言って子どもを部屋に残す。子どもの行動は隠しカメラで記録され分析された。結局我慢できずマシュマロを1個食べた子は全体の約70%。30%の子どもは、我慢して、2個マシュマロを食べた。「マシュマロテスト」の真髄は、10数年後追跡調査の結果にある。「我慢してマシュマロを2個もらえた子ども群」と「我慢できずにマシュマロを1個食べた子ども群」との比較だ。大学進学適性試験(SAT)の点数で明らかに相違がでた。つまり我慢する力=自制心(この場合は、マシュマロを食べるのを先延ばしにできる力)の強い子は、学業において優秀な評価を得た。長年、将来の成功を予測する最も重要な指標は、IQ=「知性」と思われてきた。この研究では、「自制心」=精神力の方が重要であると指摘している。
「そうか、よ~し、我慢をさせればいいのね」と、早合点は禁物。幼少期での過剰なストレスは、別な能力の発達を阻害する。子育てにも「我慢力」と「我慢力を継続させる戦略的思考」が必要だ。たとえば、「お母さんが夕食の支度をするから、おもちゃを片付けておいてね」というように子どもができることを見極めながら、少しずつ欲求不満耐性=我慢力を形成させるワザを持つこと。子ども中心の「甘い」親は、子どもが本来持っている能力を蝕んでいることになる。

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