理究の哲学(エンジン)

エピローグ

再び 考える

1977年にアレックス=ヘイリー原作の『ルーツ』というテレビドラマがありました。
作者は、アフリカから奴隷として売られてきたクンタ=キンテのひ孫です。
アメリカ合衆国が建国される前からの実話に基づいた物語です。

人類史上、最大暗部の1つである黒人奴隷問題を真正面から描いた衝撃的な作品です。
アメリカで放映され視聴率45%の大ヒット。
日本でも23%の高視聴率を出し、ブームになった力作です。
私は、翻訳本を読み、その後放映されたドラマを息を呑んで見ていました。
映画や文学といったツールは、私たちの感覚を刺激してくれる貴重なモノだと、つくづく感じます。

白人の世界には、黒人や黄色人種を“人間扱い”しない歴史がありました。
奴隷にされたアフリカの黒人たちは“死を賭けた自由への戦い”を繰り広げて来たのです。
平和に暮らしている今の日本人に想像することは、難しいかもしれません。
かつて、日本も含めアジアの黄色人種は、白人からの侵略と戦ってきました。
欧米の帝国主義に多くのアジア諸国は植民地化されました。
日本は運よく、また明治時代に気骨と知恵のある政治家や実業家たちのお陰で植民地を免れましたが、その後欧米の真似をし、大きな汚点(たった1度ですが)を残し、アジア諸国から非難を浴びているのは周知の事実です。

さて、主人⇔奴隷 の関係性を理不尽と考えた勇気ある黒人たちは、その関係性を徐々に変えてきたのです。
何世代にもわたっての命がけの戦いです。
“死を賭けた自由への戦い”です。
徐々にと言ったのは、2015年の現在でもその“試練・戦い”は継続中だからです。
キリスト教を信じている国でも、また“平等・平和”を唱えている民主主義の国でさえ、未だに差別がなくならない現状を見なければなりません。

なぜ、差別はなくならないのでしょうか?
本当に“不条理について考えている”のでしょうか?

社会的な弱者は、“武器”を持たなければ強者にはなれないということを『ルーツ』は、物語っています。

その“武器”とは、殺戮する道具を意味していません。
血の粛清は、あらたな血を招きます。
そのことは、歴史が示しています。
たとえば、世界で最強なアメリカ合衆国は、ベトナムでもアフガンでも中東でも戦争を仕掛けていますが、どれひとつ勝ってはいません。
“正義”の戦いだったモノが、皮肉なことに報復という暴力やテロを生産しました。

その“武器”とは、教養や文化であり、経済生産性や労働力であり、科学技術や開発力でもあります。
世界に存在をアピールできるパフォーマンス力です。
とりわけ病や貧困や無知から開放される国家間の連携を主張することです。
そのためには、どうしてもコミュニケーション能力は不可欠となります。
社会的弱者達は、自分と世界とのつながりを構築していき自立を獲得してきたのです。

しかし、白人⇔黒人 の関係性は21世紀になっても暗澹たる解決の糸口が見つからない状態が続いています。
悲しいかな、差別、偏見という憎悪の感性は、人間の脳の奥底に刻み込まれるのです。

以下の文章は、― 人種差別が根深い現象なのか ― を示す研究です。
池谷裕二 著『脳には妙なクセがある』より引用します。

実験データによると、非黒人は、黒人が不当に差別されていることを心理的に嫌っていて、もしも黒人差別のシーンに直面したら、かなり動揺するだろうと、本人は考えているようです。
しかし、実際に測定してみると、黒人が差別されたり不利益を被っている場面に遭遇しても自己評価するほどには動揺しなかったということです。
つまり、頭で想像する理想的な自分と、現実的の自分の行動には乖離があるのです。
自分の正義感を過大評価していることに本人が気づいてないために、格差や人種差別などなくならないかもしれません。
(P226~P227 「人種差別はなぜなくならないか」)

残念ながら、人間という生き物はそのように作られている、人間の“脳”は摩訶不思議と認識したほうがいいでしょう。
そのことは、第三章でも触れました。
だから面白く、様々な矛盾や軋轢、悲劇も喜劇も生み出すのだと考えると、世界観が変わります。

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