神奈川新聞 連載コラム

85回 ザ・チャレンジ!(小学校編)友達づくりより重視してほしいのは?

  • 2020.10.21

神奈川新聞 2020年10月19日 朝刊掲載
明治大学教授 齋藤孝氏

齋藤孝氏(明治大学教授)といえば、累計250万部を超えるベストセラー『声に出して読みたい日本語』をはじめ、著作は700冊を超える。
そんなラインアップにこのほど、心の距離の縮め方を子ども向けにレクチャーした『友だちってなんだろう?』が加わった。
コロナ時代を生きる子どもたちに向けて語った出版記念イベントを取材した。

齋藤氏はまずこう語る。
誰とでも友だちになろうと思う必要はなく、まして太宰治の『走れメロス』に描かれるような固い友情なんて、そもそも考えなくてもよい。
社交家で知られる福沢諭吉でさえ、人生で親友と呼べる人物は一人もいなかったと言っている。
それに友だちはその時々で変わっていくもの。
来るものは拒まず、去る者は追わずの気持ちが大事。
友だちづくりをもっと気楽に考えてほしい。
続けて、クラスで好きなものについて話せる人がいれば、それが友だちだと述べた。

クラスメイトと好きなものの話をしたら、人が「好き、面白い」と語ったものを自分からどんどん取り入れてみようと呼びかけ、氏が以前から提唱する「偏愛マップ」を紹介した。
偏愛マップとは1枚の紙に自分が大好きなものを描きこんだ図のこと。
これを使って、コミュニケーションを取ると苦手な人や初対面の人とも会話が弾むわけだ。
氏は人気漫画『鬼滅の刃』などの例を挙げて、具体的な取り組み方をわかりやすく説明してくれた。
ただ、好きなものをお互い語るうえでも最低限のマナーは必要だ。
特に絶対してはいけないことは「他の人の好きなものを否定すること」と語る。
人を傷つける言動はもっての外とも。
氏はこうして友だちづくり以上に重視してほしいのは、どんな相手ともある程度うまくつき合っていけることとしめくくった。

確かに実社会では様々な人と人間関係を築くことの方が友だちづくりよりも必要な能力だろう。
程よい心の距離とは楽しんで好きなものの話ができるくらいの距離感なのだ。
人との距離に制限がある時代だからこそ、意識的な心がけが大事だと感じた。