神奈川新聞 連載コラム

40回 ザ・チャレンジ!(幼児教育編)なぜ試験に5時間かける?

  • 2015.9.21

 横浜、山手の丘は私学が多く存在するエ
リアである。中学受験の世界では県内女子
「御三家」と呼ばれる学校も集中している。
9月初旬、その一角を占める学園の小学校
を訪問する機会を得た。礼儀や躾(しつけ
)を重視するその学校は昨年、小学校創立
100周年を迎えた。この4月に就任した校長
先生曰く、「良き伝統を継承しつつも、今
後は多様な価値観を受け入れられるグロー
バルな人間を育てたい」とのこと。
 この小学校の入試の特徴を1つだけ挙げ
るとしたら、試験時間そのものになろう。
一般的には2時間程度の学校が多い中、5
時間にもわたるのだ。6歳児にはかなり辛
いのでは?もしや、入試の段階で小学校生
活に耐えられるかどうかを試しているので
は?などと穿ってみたくなる。せっかくの
機会なので率直に尋ねてみた。入試担当の
先生が笑顔で返す。「お子様達のさまざ
まな面を見たいという思いから、どうしても
これだけの時間がかかってしまいます。」
ペーパーテストによる話の記憶や数・言葉の
問題、制作、運動、ゲームや遊びでの行動
観察など、問題自体はポピュラーなものが
多い。ただ、一つひとつを時間をかけて丁
寧に見ていくので、結果として長時間にな
るのだろう。
 では、それだけの時間をかけて見たい
「さまざまな面」とはどういうことか。前
述の先生曰く、「本校を受験される方々の
間では『本番での服装はこの色で…、お弁
当は食べやすく、色鮮やかに…』などとい
う情報が一部であるようです。でも、私た
ちが見たいのはそうした表面的なことでは
なく、お子さんの素養やご家庭の考え方な
んです。」傍らの校長先生が穏やかに言葉
を継ぐ。「お弁当1つ取っても、見映えが
どうかより、そこにお母さんの気持ちが込め
られていればよいのです。私たちが求め
るのは、人の話が聴けて、他人の立場に立
てる子、輝く瞳でものごとに取りかかる子。
そのようなお子様をお預かりし、学校生活
・行事を通して成長させていきたいのです。」
 学校、特に私学には各々創設以来の確
固とした教育理念があり、理想とする人間
像、求める児童像がある。そのための入試
だとすれば、5時間はかけ過ぎではなく、
一つの試験のあり方として頷けよう。