理究の哲学(エンジン)

第二章 自分ノ学

第二項 利己的と利他的

私たちは自分中心で考えるとき、他人も同じ考えを持っているかのように振舞う。
もし、そうでないと気づいたら、自分と同じ考えを持つように仕向ける。
たとえば、説得したり、強要したりするのだ。
人間というのは、一人ひとりが個性を持った異なる存在なのだ。
無限に異なる存在である他者のおかげで、個人は存在している。
他者がいなくなった世界は全体主義の世界だ。
皆、同じ考えを持ち、違う考えを持つと消されるのだ。

― 『他者論』レヴィナス ―


「自撮り」という文化現象はいつごろからでしょうか。
iPhoneの普及やFacebookの流行りだした時期と合致するかもしれませんね。自分が注目され、承認され称賛されたい。自己表現をしたい。いわば、人間の根本欲求が「自撮り」の要因です。そう、自己愛のひとつです。
私が今、この本を著しているのも「自己愛」の表出の1つです。
自分の考え方を表現したい、
自分が生きた証を残したい、
あなたに、この情報や考え方を少しでも伝えたい、
あなたに、この作品が私の分身であることを伝えたい、
という欲望が、この創作をさせています。

「あの新人わがままじゃねぇ?」
「わたしって、わがままかしら?」
って感じたことはありませんか。
誰でも、基本的には自分中心に生きているので、自分が一番大切だと認識しています。よって、人は皆ある程度”わがままな”存在といえます。しかし「じこちゅう(自己中心)」という若者言葉が、他者を非難するとき使われる意味合いは何でしょうか?
2015年の夏、政治面では「安保法案」が耳目を集めました。「安保法案」反対のデモ活動でマスメディアに取り上げられた「SEALDs(シールズ)」に対して、自民党若手議員がツイッターで批判しました。
「彼らの主張は”だって、戦争に行きたくないじゃん”という自分中心、極端な利己的な考えに基づく」・・・とやっちゃいました。当然、ツイッターは炎上し、話題になりました。このような議員が存在している事実(日本の民度の低さを痛感)は事実として、では、その「利己的」というものが、どんなに悪者なのかを考えてみたいと思います。
「利己的」な振る舞いに対して、あなたはどう感じ、どう対処するのでしょうか?

ところで「私」中心は、なぜいけないのでしょうか?

その問いに答えているのが、冒頭で紹介した『他者論』エマニュエル・レヴィナスという哲学者です。彼の思想の背景にあるのは、ユダヤ系としての出自とフランス兵としての捕虜収容所の体験です。ナチスを経験した多くの知識人たちがそうであったように、レヴィナスも人間の自由や尊厳や個性を見つめなおしました。
ポイントは、「私」とは異なる存在である「他者」の存在を尊重することで、「私」も尊重される、というものです。「私」がなくなれば、全体主義になっていくのです。全体主義が強くなれば、「私」が消滅していくというのです。

日本という「寄らば大樹の蔭」という風土の中で、「利己的な」主張を堂々と展開できる人材が出てきたら面白いと感じています。その「利己的な」者同士の議論が、行動は、新しい何かを生産する可能性もあります。
その延長線上として、「情けは人のためならず」の感覚が、各人に芽生えていればいいのではないでしょうか。利他的な行為は、巡り巡って、自分のためになる ― つまり目的の1つとして「利己的」があっていいのです。
まだ、経験も何もしていない若者に”世のため人のため””For the team!”と公言されても「え?本当に?」と疑念を持ちながら引いてしまう屈折した自分がいます。先ずは、「自分のためにキミは何ができるのか!」と問いたいのです。
少々「利己的」を弁護しましたが、一方で「ジコチュウ」は心配の種。
人間関係が築けない「ジコチュウ」は問題児化していくでしょう。そうしないためにも、他者を視界にいれる工夫もしたいものです。それだけで、「ジコチュウ」力は軽減します。

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