理究の哲学(エンジン)

第三章 脳と心ノ学

第八項 ストレス発散を学ぶ

脳から見ると、ストレスは自らの存在や生存を脅かす強敵と同じです。ですから、自ら守ろうとする動物脳が反射的に作動します。この動物脳が過剰に働いてしまう(=暴走する)ことで様々な脳の病気が引き起こされます。ストレスがかかると、動物脳は、さまざまな神経伝達物質を分泌します。それは、怒りや興奮、不安や恐怖といった感情を伝達するノルアドレナリンです。

― 篠浦 伸偵「脳にいい5つの習慣」 ―


♪♪涙のキッスもう一度 誰よりも愛している
♪♪最後のキッスもう一度だけでも 君を抱いていたい

サザンオールスターの名曲『涙のキッス』(1992年)です。

♪互いにもっと解り合えたつもり、行かないで胸が痛むから~♪

「胸が痛む」誰にでも経験がある、なんともいえない感情です。
「やるせない」「つれない」「くるしい」・・・半端ないストレス状態、と想像できます。しかし、恋のストレスは、人間を成長させてくれます。失恋経験は、人生にばねを与えてくれます。まぁ、これも後付の感想です。脳は何かと“言い訳”をしますから。

恋に関するストレスは良いとして、しかし、それ以外のストレスはできれば避けたいところです。「ストレス」とどう立ち向かうのか、どのように対処すれば良いのか、「ストレス」を和らげ、回避するためには、どうすれば良いのかという万人の悩みがあります。
医師の有田秀穂氏は、『脳からストレスを消す技術』の中で、溜まったストレスを一気に解消する機能として「涙を流す」ことを医学的見地から述べています。「そうか、女性が長寿なのは、ストレス発散のために、すぐ涙するのか」と妙に納得します。有田氏は、ストレスを克服するといった戦闘的な心構えではなく、ストレスを受け流す体質をつくることを提唱しています。
その体質は「セロトニン神経」を活性化させることで高まるそうです。ストレス回避、発散に関する医学書、専門書も世に溢れています。私は、先人たちの知見を咀嚼しながら、「ストレス回避五策」として【ゴ・リ・ラの・キ・ス】を考案したので紹介します。
あなたが、できるだけストレスを感じないように説明をしたい、と思います。

さて、【ゴ・リ・ラの・キ・ス】を説明する前に、“ストレス”という得体の知れない現象を定義づけします。
“ストレス”=自分の中で「どうしよう?」をためることで起こる現象、とここでは限定します。限定というのは、ストレスは、身体的なストレスもあれば心のストレス(脳内ストレス)があり、また個々によって様々だからです。
さて、「どうしよう?」「どうしたらいいんだろう?「困ったな?」「なんかいい方法ないかな?」と悩み、困惑した経験、ありますね。

そこで、「ストレス防止」の根本原則を ―どうしようもないことを考えない!― とします。

世の中は、「変えられるモノ」と「変えられないモノ」に分けることができます。「変えられないモノ」は、他人と自分の過去です。逆に、今の自分自身と将来の自分は変えられます。
自分と長年付き合ってきた自分の容姿(身長、骨格、髪の質など)は、たとえ変えたくても変えられません。受験を失敗したことや、失恋したことをクヨクヨしていても仕方がありません。過去は過去。「どうしようもないことを考えない事」を原則・基準を持ちます。今何をすべきか、明日はどうするかを考え、大事にしていくのです。
とは言え「どうしよう?」という場面に遭遇します。または、そのフレーズが心を支配する時、あなたはどうしますか?
たとえば、「タバコは健康によくない」「家族からも臭い、と評判が悪い」の情報をキャッチした瞬間、思わず“どうしよう?”と心の不安定さを感じるはずです。その時、あなたは、まさに、どうしますか?
きっと、多くの人は自分の心の中に抱え込むでしょう。
タバコという“快楽”“落着く自分のツール”“親しんだ習慣”に対して、外からの圧力(不健康情報と家族の視線)との葛藤が生じるからです。
結論の出せない人はいつも「どうしよう?」を繰り返し、家族の態度・視線・言動を気にしてストレスを貯めていくことになります。帰宅時には、マウスケアをし、オーデコロンで臭いを消すなど、涙ぐましい行動をします。しかし、根本的なストレス解消にはなりません。
人は、自分の生理反応や欲望や感情すら自由にはなりません。コントロールできるのは、自分の行動(行為)と考え(思考)だけなのです。
そこで「どうしよう?」を開放させ、軽減、解消させる「ストレス回避5策」=【ゴ・リ・ラの・キ・ス】を説明しましょう。

1. 「ゴ」・リ・ラの・キ・ス

合理的に考える2つのクセをつけます。1つは、無理な一般化を避けることです。プロローグで触れた”型による占い”の類に束縛されて自由を制限するのはどうみても不合理です。2つ目は因果関係、相関関係を考えるのです。
たとえば、先ほどタバコの例で考えましょう。
「喫煙指数(Brinkman指数)=1日の喫煙本数×喫煙年数」というものあります。指数が600を超えると、非喫煙者に比べ、20倍肺癌になりやすいという指数です。
たとえば、1日20本喫煙している48歳(喫煙年数28年)の円満な家庭のサラリーマン男性。現在、中学生と小学生の2児を養育している喫煙暦28年です。数式に当てはめると 28年×20本=560指数となります。これがあなたの過去の負の累積。
まだ、600指数までには到達していません。ぎりぎりセーフです。
このまま5年も喫煙し続けると、肺癌発症の可能性が高くなります。
このBrinkmanは50年も昔のデータに基づいて発表された医療界では常識となっている指数です。現在では、タバコが血管に重要な負荷をかけている事も知られています。脳梗塞、脳溢血、心筋梗塞など重大な疾患を引き起こす対価(父親としての責任が果たせなくなる。健康な生活が送れなくなる)を考えれば、行動が変わるはずです。
合理的に考えれば、「どうしよう?」は消滅するでしょう。

2. ゴ・「リ」・ラの・キ・ス

“リラックス”できるモノ・コト・トコロ・ヒトに関して自分自身に問うことから始めてみてください。
「俺、やっぱりあの曲好きだなぁ」
「あの景色が私の中で、ベスト3に入るかも」なんて思い巡らすのです。
あなたは、どんな時に、どんな場所でリラックスするのでしょうか。
忙しいあなたは、“リラックス”することを後回しにしていませんか?リラックスできない人は、脳に酸素が行き渡っていない可能性があります。
切り替えをすることで、判断力を回復させるのです。
「どうしよう?」の起因として優柔不断さあります。頭脳をすっきりさせる準備をしましょう。“リラックス”を準備するだけで、自分を変えてくれます。あの、遠足前日のワクワク感と同じです。
スポーツ鑑賞、自分の身体を動かす、ジムに行く、音楽鑑賞、楽器を弾く、食事を作る、名店をめぐる、自分の趣味に没頭する、ドライブする、カラオケにいく、海を見る、山に登る、・・・。
自分の好きなこと、したいことをするのが一番。その場所、その時を確保する努力をしましょう。そして、思い切って行動してみるのです。

3. ゴ・リ・「ラの」・キ・ス

第一章で紹介した「楽観脳」と「悲観脳」を意識してみることです。メタ認知能力を駆使してみましょう。
毎日誰でも、楽観的に生きているわけではありません。第一章でも触れたように、ただの楽観主義は、ただの能天気でしかありません。そんなヒトはまずいません。誰でも、迷ったり、悩んだり、悲しんだり、恨んだり、悔やんだり、落胆したりの連続です。「悲観脳」は出現しやすいのです。その「悲観脳」が動いたときに、もう1つの「楽観脳」に登場してもらうのです。
報酬や食欲や性欲などの「快」は、脳内神経伝達物質「ドーパミン」がもたらします。「ドーパミン」は脳を興奮させ、意欲的にもさせます。これが「不快」に転じるとストレスを感じさせます。空腹で食欲全開時には、ドーパミンもでます。その時に会議が長引くとイライラ感も増します。「司会進行役は何をしているんだ?段取り良くやってくれよな」のように、「悲観脳」がむらむらと登場します。そんな時“まぁ、いっか!”“うん、ちょいと考えてみっか!”というノリで、瞬間的に「楽観脳」を登場させるのです。
「悲観脳」に支配させない“切り替え”と“間”を持たせるのです。これも1つの技です。イライラする性格だからできないという固定的な考えは捨てましょう。“そうか、そうか、そうきたか。まぁ、しゃない、しゃない、しゃないな。まぁ、いっか!”なんて、心の中でつぶやいたら「悲観脳」は少し萎みます。
逆もまた、大事なことを教えてくれます。「楽観脳」に支配されそうになったら、“うん、ちょいと待てよ。本当に大丈夫か?上司はハイテンションで言っているが、根拠は何だ?”というように、「悲観脳」を登場させるのです。 自分自身で「楽観脳」と「悲観脳」を観察するような“技”を持つことです。

4. ゴ・リ・ラの・「キ」・ス

“境界線”を自分で決めることです。
たとえば、思春期の「わが子が勉強しないのでストレスになっている」類のことはよく耳にします。親としての気持ちはわかります。しかし、勉強するのは、母親ではなく、子どもです。児童期までの躾の期間であれば別問題ですが、思春期になっているならば、考え方を変えてみましょう。その主体者たる本人が決めること、行動することに、“不可侵”を決めます。1つ境界線を引くのです。
気をつけることは、突き放すわけではない、ということです。なぜ気分が乗らないのか?何か理由があるのか?学校ではどんな勉強が好きで、嫌いな科目は何なのか?など、コミュニケーションを取りながら、子どもの状態を理解することです。そのことが、結局、親離れ、子離れになり、自立した大人へ導く教育にもなります。
自分が悩むべきことかどうかの“境界線”を定めることで、ストレスは軽減されるでしょう。パートナーや親戚との関係も同じように考えましょう。自分が“やれること”と“やれないこと”を明確にする、境界線を引くことで整理ができます。
最近ダブルケアという深刻な問題が話題になっています。これは一筋縄ではいきません。育児と親の介護が同時に来てしまった母親問題です。普通のヒトはできません。子としての義務感もあるので悩むことはわかります。しかし、できないことはできないと認めることからスタートすると、ストレス防衛になります。できないことを無理して、犠牲になって何とかしようとするから、ストレスを背負うことになります。
境界線を引いた上で、サポート活用をすることを進めます。
境界線を引いて終わりでは、心の底の“敗北感”や“罪悪感”に縛られ、次なるストレスに襲われる可能性があります。情報を集め、知恵を借りましょう。

5. ゴ・リ・ラの・キ・「ス」

スキルアップをすることです。
家事、趣味、仕事なんでもよいので、スキルアップして自分力を高めるのです。
実は、私自身、仕事にかまけて家事をすべて女房任せ。ある時、気がついたら何もできない自分がいました。電気製品は昔と違いかなりハイテク。器具に触るものの、たまにしかやらないので、覚えられません。
何がどこにあるのかわからないので、当然、何もできません。女房も私の“無能さ”を知っているので、私がキッチンに入ると、邪魔になるのか家事に参加させようとしませんでした。本人に意識は無くても私は感じていました。いわゆる“家事ハラスメントです。そう“家事ハラ”です(笑)
私ができるのは、せいぜい冷蔵庫からビールと氷を出すぐらい。偏差値でいうと30レベル(家事能力)。
これでは、マズイということで、女房にも相談し、協力を頼み(ここが重要なポイントです)、「男の料理」をスタートさせました。料理をすると、自然に周辺機器や道具や調味料のこともわかってきます。最近、中華の万能調味料が「ウエイパー」から「創味シャンタン」に変わったことを知りました。こんなチョッとしたことですが、自分自身の視界が広がる感じがします。
2週間に1度くらいしか「男の料理」はしませんが、明らかに偏差値は40台に伸びました。キッチンに入ってもオロオロ感がなくなりました。
あなたも、仕事以外のことでスキルを磨いてみましょう。

最近離婚経験をした友人と久しぶりに会いました。数年ぶりでしょうか。
意気消沈しているかと思えば、とても元気にしているので理由を聞いて、驚きました。『実は、ピアノをやり始めたんだ。大学では、せいぜいバイエル程度だから、音楽教室で習い始めてね。半年後に発表会があるんだよ』
彼も仕事が忙しくて、今まで好きな趣味にも時間を使えない自分にストレスを感じていたのが、離婚を契機にピアノを始めたそうです。離婚ショックも忘れ、今は充実していると心境を明かしてくれました。酔いが回った頃、
『実は、同じ教室に素敵な女性も通っていてね。時々お茶を飲むんだ』
少年のように輝く瞳に、友人一同『マジかよ!』

太宰治は、『斜陽』の中で、「人間は恋と革命のために生まれた」という名言を残しています。私の友人は、恋(淡いかもしれないが)に希望と未来を見つけたのかもしれません。
スキルアップしている間に、とても幸福な副作用も現れます。
酒宴も盛り上がってきた頃、別の友人が
『オレもピアノ習いに行こうかなぁ』とポツリ。
『おい、おい、マジかよ!』

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