理究の哲学(エンジン)

第三章 脳と心ノ学

第三項 脳は「摩訶不思議」

脳でつくられるオキシトシンというホルモンを鼻から吸収させ続けると、他人とのコミュニケーションが苦手なアスペルガー症候群などの成人男性の症状が改善されたとする臨床研究の結果を、東京大学などのチームが英科学雑誌に発表した。

― 「鼻からホルモン アスペルガーに効果」2015年9月7日 朝日新聞記事コラム ―

We shall never know all the good that a simple smile can do.
(わずかな笑顔であっても、想像できないくらい、いいことがあるのですよ)

― マザー・テレサ ―


私たちの脳は、”信じている結果を、自ら作り出すようにできている”という嘘みたいな話があります。
その1つが、「プラセーボ効果」(偽薬効果)。この有名な認知心理学の知見を紹介しましょう。たとえ偽の薬でも、「医者に処方されたので、この薬は効くに違いない!」(本人はホンモノの薬と思っているので)と思っていると、その結果(効力)を自ら作り出す。というのです。
”信じるものは救われる”に通じるものを感じます。
日本のことわざにも「いわしの頭も信心から」というのがありましたね。

「プラセーボ効果」(偽薬効果)は、脳内にモルヒネによく似た構造を持つ化学物質、鎮痛作用のあるホルモンを合成して、自分自身の力で痛みを止めるのです。考えてみると、これって凄いことです。脳はおそろしく、かつ素晴らしい組織体です。
このような「プラセーボ効果」(偽薬効果)のある脳内ホルモンが次々と発見され、現在までに30種類ほどが知られています。 代表的なものが、ベータエンドルフィンです。
楽しいときや、幸福感に満たされているときに分泌され、脳の活性化や免疫力向上といった、若さを維持する働きがあることが報告されています。
こうした脳内ホルモンの分泌によって、人間の心や身体が変化していくということが分かってきました。
冒頭で紹介した朝日新聞に掲載されていた記事”オキシトシン”も最近特に注目されているホルモンです。

さて、ここで少しだけ脳の構造に触れます。
専門用語が並びますが、覚える必要はありません。(他のページに比べ漢字が多いので、苦手なヒトは飛ばして次ページへどうぞ)脳の構造は複雑です。自然界が創作した最高傑作ですから単純な訳がありません。この複雑な脳をイメージするのに、私は今のところ地下2階、地上1階の3階建てのビルを描き、単純化して考えるようにしています。
まず、地下2階は「脳幹」。”生きるため”の機能があります。
脳幹は、中脳、橋、延髄などで構成されています。脳幹は、私たちの意識や意思に関係なく機能します。私たちを生かすため365日昼夜休むことなく活動しています。ビルで言うならば、機械室のようなところです。油の臭いがする感じです。よくわからないスイッチとかパイプが走っています。(あくまでもイメージ)人間の心拍、呼吸、血圧などをコントロールしています。

次に、地下1階は「小脳と間脳」。生物として活動するための、本能、反射行動、感情を担っていると考えればいいでしょう。
小脳は、感覚と運動機能を司ります。敵かどうかを見分ける、音、匂い、周囲の状況など、危険をキャッチしたら逃げる能力がなければ生き残れません。
間脳(視床)は、視床下部、大脳辺縁系、大脳基底核など。(専門書によっては、大脳辺縁系と大脳基底核を大脳に属するものもある)
私は間脳 = 本能の役割とみるとイメージしやすいので、上記のように分類しました。間脳(視床)は、中枢神経系で最大の神経核のかたまり。大脳辺縁系の”扁桃体”は、情動(怒り、嫌悪、恐怖、喜び、悲しみ、驚き)の中枢。第1章で触れた「幸福感・喜び」は、情動と結びつき”側坐核”が関与しています。”扁桃体”の横には、記憶を司る”海馬”があります。海馬は、比較的有名な用語なので聞いたことがある人が多いでしょう。
視床下部 ― 下垂体の連携で様々なホルモンを分泌しています。視床下部は、食欲、性欲に関する場所です。
私は、この地下1階を変幻自在なカオスのような空間をイメージしています。時には甘い香水を匂わす魔性の女性が登場したり、時にはヘドロで悪臭を放っている海岸であったり、妖怪が闊歩する森であったりするのです。少し大人のアニメのような不思議な世界です。

さて、最後の地上1階は、脳全体の総重量の80%を占める大脳です。
この大脳の役割はあなたも知っていますね。そうです、知的活動(推理、判断、思考)をしています。大脳は、4つの葉に分かれています。それぞれ機能がありますが、詳細を知りたい人は、ネットで調べてみましょう。人間が人間になるために進化させた秘密の場所です。

各階は、連絡通路を縦横無尽に巡らせています。そのネットワークがどのようになっているのかは解明されていませんが、地下1Fの間脳(本能)の感情機能に大脳は常に影響を受けていると考えられます。

脳の働きについて説明してある『オキシトシン』の中から、とても興味深い箇所を少し紹介します。


体の中で起こっていることの大半を制御しているのは、下位の脳(辺縁系と脳幹)のレベルだ。私たちを生かしておくために、下位の脳は休むことなく活動し、私たちの意識や意思と関係なく機能する。心拍、呼吸、血圧は脳幹からの制御を受ける。私たちが痛みに反応したり、恐れたり、気持ちが高ぶったり、性的に興奮したりするときにもこのレベルが関わっていて、この場合の制御は、主に辺縁系の視床下部と扁桃体の活動を通じて行われる。

― 『オキシトシン』 シャスティン・ウヴネース・モベリー ―


この項の冒頭にマザー・テレサの言葉を引用しました。この言葉と同じ意味になる日本人の知恵として「笑うかどには福来る」があります。
楽しい感情には、問題解決を容易にしたり、記憶力を高めたり、集中力を高めたりする心理学研究が多く報告されています。
最近の脳科学は、笑顔に似た表情をつくるとドーパミン系の神経活動が変化することを見出しました。ドーパミンは、「快楽」に関係した脳の報酬系です。つまり、楽しくなるから笑顔になるのと、笑顔になるから楽しくなるという逆因果が成立するのです。
脳は、自分が信じた結果が実現するように、自ら、さまざまな物質を作っているのです。このような素晴らしく、信じがたい有能な機能を私たち人間は授かっているのです。
無知な指導者が、生徒の頭を叩くという事件が未だにあります。”脳は自然界が創造した最高傑作”世界遺産を超越するモノです。その脳がつまっている頭を小突くとは、とんでもなく恥ずべき行為以上に犯罪行為です。
あなたの周りに、もしも軽々しく子どもの頭をポンポンと叩くような人がいたならば、「”脳は自然界が創造した最高傑作”なので、大事にしてくださいね」と言ってあげてください。

この言葉はすぐに覚えましょう。覚えるためにはまず声に出すことです。もう一度言います。”脳は自然界が創造した最高傑作!”

さて「信じている」とは、どういうことでしょうか。
「口に出していること」こそが、「信じていること」に連結するという学者もいます。言葉を口に発することで、その言葉の意味が脳に記憶されていきます。意識は言葉によって作られ、発声したことでさらに意識が確固たるものになっていく、という循環があるという主張です。

あなたにも経験のある身近な例を示しましょう。

あなたが、彼氏や彼女に優しい言葉を使う場面を想像してみましょう。前提は喧嘩をしていない、ごく普通の恋人同士、仲良し、という設定です。
目を瞑りながらイメージしてみましょう。

『来週時間が空いたから、キムタク主演のあの映画見に行こうか』
『この間のお弁当、ありがとう。すげぇ旨かったよ』
そのとき、言葉を発しているあなた自身は、どんな表情をしているでしょうか。

鏡の前で言ってみると面白いですよ。厳しい表情で優しい言葉を使うのは、俳優とかお笑いとかの表現者ならできるかもしれませんが、多くの人はできません。優しい言葉を使っているときは、誰もが優しい表情になります。

そういえば、”明・楽・元・素プラス賢”ことばを発する社員は、学生からも人気があります。それは、ポジティブな言葉によって意識が優しくなり、それが表情に反映するからかもしれません。
そして重要なのは、そうした言葉が「口ぐせ」という習慣になって、意識もまた定着していくということです。
逆に”暗・苦・病・反プラス愚”ことばをよく使う人が頑固な頭をしているのも同じ原理かな、と感じています。ですから、幸せになるために、成功するために、ポジティブな口ぐせを身につけましょう、と多くの啓蒙者が言っているのは”正論”です。

『私、性格なんで明るく振舞えません。だから仕方ありません』と開き直るのは賢くありません。美容整形でお金もリスクもかけて”見た目”を気にする、大事と考える時代です。外見に自信がなく、それを変えることでその人自身の人生が積極的になれるのなら、1つの方法として整形手術も考えられます。(私は、今のところ整形手術をする予定はありません。母から受け継いだ”だんごっ鼻”をこよなく愛しています)
”明・楽・元・素プラス賢”ことばは、お金もリスクもゼロです。考え方と行動力だけです。

固定ページ:
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44

45

46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 100 101 102 103 104 105 106 107 108 109 110 111 112 113 114 115 116 117 118 119 120 121 122 123 124 125 126 127 128 129 130