理究の言魂(ことだま)

10-1 意欲優先の原則

モチベーション(=Motivation)というカタカナ英語は日本語のように使われています。学術的な用語として心理学の世界では、”動機付け“と呼んでいます。日常語として「意欲」「やる気」「その気」「頑張ろうとする気持ち」などと同じです。

NO9 行動原則」の頁で、内発的動機付け、外発的動機付け、について触れました。「ほめる&叱る」は、外発的動機付けです。教育評論家の多くは、「ほめる」ことばかりを推奨しています。しかも外発的動機付けではなく、内発的動機付けが大事であることも強調します。少々矛盾している発言です。あまり単純化しすぎると火傷しそうな領域です(汗)。
つまり、それだけ「動機付け」とは、一筋縄ではいかない人間行動の複雑さや流動性を包含していると考えた方がいいでしょう。

心理学視点からの「動機付け」には何度も触れてきたので、この回では社会学の視点での見解を紹介しましょう。
東京都立大学 の宮台真司 教授が「14歳からの社会学」の中で、社会学という視点から動機を3つに大別しています。

14歳からの社会学―これからの社会を生きる君に (ちくま文庫)

14歳からの社会学―これからの社会を生きる君に (ちくま文庫)

1. 競争動機・・・相手に“勝つ喜びを得たい”という動機。親や先生に誉められたいという欲求も同じ。外発的動機に分類されますが、自主性が伴う動機でもあります。

2. 理解動機・・・一般的には、“わかる”喜びです。好奇心や達成感の強弱が関係してきます。学校の勉強でも、全くチンプンカンプンな科目はやる気が出ないものです。しかし、「もう少しでわかりそうな科目」になると俄然、気持ちが変わってきます。

3. 感染動機・・・憧れや希望により、自分の行動が促されるというものです。たとえば、尊敬する高校の先輩が、難関大学に合格したので、自分も先輩のようになりたい、といった類のもの。
宮台氏は、この“感染動機”を最も内発性の強い動機として重要視しています。“子どもは環境から「学習」するのだ”という宮台氏の体験的・根源的な主張から派生したユニークな説明です。

対象は、本の題名で示す通り主に中学・高校生です。灘中学・高校の和田校長も講演などで引用することもあり、多感な受験に向かう青少年の動機付けを説明するのにわかり易く、説得力も感じる考え方です。

“好きこそものの上手なれ!”で表現されるように、好きなモノには誰でも積極的になれます。スポーツや学習、音楽、囲碁、将棋などもそうですね。だから、好きなことをたくさん持っている人は、積極的な人生を歩む確率は高いでしょう。

さて、習い事や塾の場合はどうでしょうか。生徒本人が、教室の門を叩くのであれば、その段階で最低限度の“意欲”は担保されています。指導者としては、比較的スムーズに事を運ぶことができます。
指導者の腕の見せ所は、生徒自身が消極的な場合です。
“どうしたら児童・生徒は意欲的になれるのか”という悩みは、指導者でいる限り永遠の課題。と同時に・・・指導者として意欲的であり続けられるかどうかは、あなたの自身の課題なのです。

実は指導者として“輝きを保つ”重要な意味を持ちます。「NO10-1 意欲優先の原則」は、【学び手】だけの問題ではなく、【指導の担い手】の課題でもあることを認識しましょう。

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